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水戸地方裁判所 昭和46年(わ)198号 判決 1979年5月29日

主文

被告人薄井ます、同吉村忠夫、同助川一司を各懲役二年に、

被告人野澤力三を懲役一年に、

被告人黒澤英雄、同黒澤大二、同黒澤武雄、同竹内克己、同川崎萬吉、同堀川秀雄、同根本徳太郎を各懲役八月に、

被告人大内一郎、同河田勝治を各懲役六月に

それぞれ処する。

この裁判確定の日から、被告人薄井ます、同吉村忠夫、同助川一司に対し各四年間、被告人黒澤英雄、同野澤力三、同黒澤大二、同黒澤武雄、同竹内克己、同川崎萬吉、同堀川秀雄、同根本徳太郎、同大内一郎、同河田勝治に対し各三年間右それぞれの刑の執行を猶予する。

被告人黒澤英雄から、押収してある日本銀行券(一万円)一〇枚(昭和四九年押第一〇一号の六)を、

被告人黒澤武雄から、押収してある日本銀行券(一万円)一〇枚(前同押号の九)を、

各没収する。

被告人野澤力三から金三〇万円を、

被告人黒澤大二、同竹内克己、同川崎萬吉、同堀川秀雄、同根本徳太郎から各金一〇万円を、

被告人大内一郎、同河田勝治から各金五万円をそれぞれ追徴する。

訴訟費用中証人川上キヨ、同郡司喜久子、同郡司栄子、同斉藤みつ子、同中島玲子、同富山とし子、同小圷君子、同山口八重子、同足立政江、同竹永ひで子、同西野美智子、同富山とし子、同大川進子、同中村雄一、同押田勝男、同高崎司に支給した分は、被告人吉村忠夫、同河田勝治の連帯負担

証人薄井てう、同石川ふよ、同石川ちよ、同根本甚市(第一七、第一八、第一九回)、同岡部勝一、同磯崎恵子、同深谷半四郎、同岡部荘次兵衛、同竹永敬、同根本義勝、同男庭一成、同広木潔、同薄井哲夫、同根本弘、同大内長吉、同横須賀与四郎に支給した分は、これを一四分し、その一ずつを被告人一三名の負担

証人中郡幸次に支給した分は、被告人薄井ます、同吉村忠夫、助川一司、同川崎萬吉の連帯負担証人武石祐次に支給した分はこれを六分し、その一ずつを被告人薄井ます、同吉村忠夫、同助川一司、同河田勝治、同黒澤大二、同黒澤武雄の負担

証人武藤建男に支給した分は、被告人薄井ます、同吉村忠夫、同助川一司、同竹内克己の連帯負担

証人助川美水に支給した分は、被告人薄井ます、同吉村忠夫、同助川一司、同野澤力三の連帯負担

証人薄井敬正、同根本きみ子に支給した分は、被告人薄井ます、同吉村忠夫、同助川一司、同根本徳太郎の連帯負担

証人深谷喜男に支給した分は、これを五分し、その一ずつを被告人薄井ます、同吉村忠夫、同助川一司、同川崎萬吉、同堀川秀雄の負担

証人根本甚市(第六四、第六七回)、同宮本正日伝に支給した分は、これを一三分し、その一ずつを被告人一三名の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人らは、いずれも昭和四六年六月二〇日施行の茨城県那珂湊市長薄井与兵衛の解職投票に際し、同市長の解職に反対して運動していたものであり、被告人助川一司を除くその余の被告人は、いずれもその選挙人であるが、

第一  被告人薄井ます、同吉村忠夫、同助川一司は、共謀のうえ、右市長解職に反対する目的で、同年五月二〇日ころ、同県那珂湊市部田野八四二番地黒澤英雄方において、選挙人である同人に対し、同人の三女黒澤英子を介して、前示解職反対の投票並びに投票とりまとめのための運動をすることの報酬として現金一〇万円(昭和四九年押第一〇一号の六)を供与したほか、別紙犯罪一覧表記載のとおり、同月二三日ころから同月下旬ころにかけて、前後一〇回にわたり、同市磯崎町四、六四二番地黒澤力三方ほか七か所において、いずれも選挙人である同人ほか九名に対し、前同様の目的で前同様の運動をすることの報酬としてそれぞれ現金三万円ないし三〇万円を各供与し

第二  いずれも被告人吉村忠夫から、前示目的及び趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら

一  被告人黒澤英雄は、同年五月二〇日ころ、同市部田野八四二番地自宅において、三女黒澤英子を介し、現金一〇万円(昭和四九年押第一〇一号の六)の供与を受け

二  被告人野澤力三は、同月二三日ころ、同市磯崎町四、六四二番地の自宅において、現金三〇万円の供与を受け

三  被告人黒澤大二は、同月二三日ころ、同市阿字ケ浦町六六三番地の自宅において、現金一〇万円の供与を受け

四  被告人黒澤武雄は、同月二六日ころ、前示黒澤大二方において、同人を介し、現金一〇万円(前同押号の九)の供与を受け

五  被告人竹内克己は、同月下旬ころ、同市明神町五、五三六番地の自宅において、現金一〇万円の供与を受け

六  被告人川崎萬吉は、同月下旬ころ、同市六丁目五、一二五番地薄井与兵衛後援会本部において現金一〇万円の供与を受け

七  被告人堀川秀雄は、同月下旬ころ、同市八幡下七、一六三の一番地の自宅において、現金一〇万円の供与を受け

八  被告人根本徳太郎は、同月下旬ころ、同市磯崎町四、六四二番地野沢力三方において同人を介し現金一〇万円の供与を受け

九  被告人大内一郎は、同月下旬ころ、同市辰ノ口六、〇七二番地の四所在三浜船員会館において、現金五万円の供与を受け

第三  被告人吉村忠夫は、同年六月一六日ころ、同市釈〓町五、七一八番地竹永敬方において、被告人河田勝治に対し、前同様の目的及び趣旨で現金五万円を供与し

第四  被告人河田勝治は、右同日、同所で、被告人吉村忠夫から前同様の目的及び趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら現金五万円の供与を受け

たものである。

(証拠の標目)(省略)

(弁護人らの主張に対する判断)

一  本件は、政治資金規正法上の政治団体たる薄井与兵衛後援会連絡協議会の会員としての許された政治活動のために支出された立替金の内部関係における支出であつて、買収及び被買収の行為にはあたらない旨の主張について

しかし、後援会活動であるからといつて、それが地方自治法によつて準用される公職選挙法二二一条一項各号に該当する行為であれば、後援会の名をもつてすると否とにかかわらず、同条違反の罪が成立することは明らかである。

本件各金員の授受当時、被告人らが後援会本部に、選挙対策本部なるものを組織して、街頭宣伝活動など被告人らのいう後援会活動を活発に行つていたことは証拠上明らかであり、これが市長解職投票の投票運動にあたることも明らかであるから、右運動に際して、金銭の授受があれば、その趣旨如何によつて、犯罪が成立することも当然である。

そこで、まず本件金員が、後援会といかなるかかわりを持つものであるかについて検討する。

押収してある小型金銭出納帳、農事メモ及び岡部勝一の昭和四六年九月八日付検面調書によると、次の事実が認められる。

右小型金銭出納帳及び農事メモは、当時後援会会計担当者根本甚市が多忙であつたため、被告人薄井(以下薄井という)の実兄である右岡部勝一が事実上の会計担当者として記載していたものであつて、小型金銭出納帳の昭和四六年五月二〇日欄に「薄井婦人渡」として一二〇万円の支払が記帳され、農事メモには「6/3寄附金」として一二〇万円の入金が記帳されているのみで、その余の本件金員の流れについては一切記帳されていない。他面、右出納帳、農事メモには、支部等への経費の概算払いと認められる支出が、その都度記帳されているのであつてこれと対比すると、本件において授受された金員が後援会の帳簿に記載されていないことは、不合理かつ不自然である。

内部関係であると否とを問わず、後援会の資金としての支出であれば、その都度現金の動きがあることは当然であるから、その収支が後援会の現金出納帳に記載されないことはあり得ない筋合いであつて、その記帳がなされていないことは、本件授受の金員が、後援会ひいては後援会活動に関係のない支出であることの証左というべきである。

次に、受供与各被告人の認識についてみると、右小型金銭出納帳によれば、五月三日「募集人夫賃堀川秀雄殿」として三万円、同月五日「平磯後援会へ竹内様」として三二、〇〇〇円、同月六日「同上(募集人夫賃)川万渡」として二五、〇〇〇円、六月一五日「川万外交ヒ」として一五、六七〇円、五月五日「尺〓町後援会へ」として二〇万円、同日「平磯後援会へ竹内渡」として三二、〇〇〇円、六月四日「平磯支部賄ヒ」として五万円、六月一二日「磯崎支部渡」として一四五、〇〇〇円、同月一三日「助川を通じ磯崎支部へ」として一〇万円、六月一八日「平イソ支部の賄費」として二〇万円などの記載がみられる。このことは、後援会として支出される金銭は、会計担当者から相手方に対し、その都度支払われるものであることを示すものであつて、会計に関与しない吉村から支払われることはなく、特段の理由なく同被告人から金員を受領した者は、それが後援会からの支出でないことの認識があつたものと推認できるのである。

以上のとおりであつて、吉村が薄井から受取り、供与した金員は、後援会の資金ではなく、被解職請求市長の妻である薄井個人の出捐であつて、後援会活動とは関係のないものである。

更に、被告人らのいう組合対策、市民に対する啓蒙運動ないしリコール反対運動のため各被告人らが立替払した費用を支払おうという幹部会の決議ないし取決めがあつたとすることは、納入された会費もなく、適正な寄付金も殆んどない後援会としては、資金的にこれを支出するに由ないものであるから、その資金的手当をしないまま右のような決議をすること自体不合理である。

そして、右決議については、捜査段階においては全く触れられていないし、冒頭手続における被告事件に対する陳述においても、各被告人及び弁護人において一切触れるところがなく、審理の終期に至つて初めて、各被告人から供述されたものであつて、その供述の時期、審理の経過に照らしても、右供述はいずれも信用するに価しないものである。

また、根本義勝の昭和四六年九月一三日付検面調書によれば同年五月二〇日前後ころ、吉村と助川が同人方(平野屋)に来て、市長派議員らに手当をするのに金がかかる、その選挙資金をどうしたらいいかといつて便箋のようなものに名前等が書かれているものを見せられ、黒澤佐左ヱ門というのにも三万円というように書いてあつたので、こんなものにもやらなくちやならないのかといつた記憶がある、二人には、私には分らないからおますさんに相談しなさいといつて別れた旨の供述記載があり、この点について吉村の九月一七日付検面調書には「何回か平野屋に行つているので、その際、助川と私と根本が会つてその様な話し合いをした様な気もするのですが、これは、はつきりした記憶ではありませんですから、その場でどんな話がなされたかといつた細かいことは覚えていません竹内が一緒にこの様な話しに加わつたことは、私の記憶ではありません」となつており、被告人助川(以下助川という)の八月二四日付検面調書には、岡部方で金を受取る前日、吉村、竹内にいわれて平野屋に一緒に行き、吉村が罫紙の一覧表を出し、市長派議員の名前を書いてあるものを見せ、竹内に、ますにも話がついており、金は用意してくれるよう頼んであると話していた旨の供述記載がある。また、被告人竹内のこの点についての供述調書はない。そうであれば、根本調書作成前にあつたこの点の調書は助川のものだけであつて、竹内が同行したか否かについては両者の間に相違があるし、会話の内容にも一致しないものがあるのであるから、右根本調書が検察官の誘導によるものとは認められず、第三者の供述としてその内容は信用すべきものがある。

そして、これらの調書によると、少くなくとも吉村が岡部方で薄井から金員を受取つた日の前日ころか、その何日か前ころ、吉村と助川が平野屋に根本を訪ね、配布先市議らの一覧表を示して、資金面の話をしたことが認定できる。また、この点に関し右根本は第二六回公判廷で証人として、検察官からの、右調書に、吉村が「市長派の議員に手当する金がかかる、その金が無くて困つているんだ」といつたと述べているが、との質問に答えて「金の無い連中ですから、当然そういう話をしていました」旨供述しているのであつて、これに続く供述で右証言は、伝聞であるとするのであるが、その供述経過からしても、同人の前示供述調書と対比しても信用すべきものがあり、平野屋で吉村から資金面の相談を受け、「おますさんに相談しなさい」と答えたことが認められるのであつて、当時はまだ具体的に市議らに配布する資金の手当がついてなかつたと考えられるのであつて、それより以前に幹部会の決議があつたとすることは経験則に反するものがある。

以上いずれの点からしても、被告人らのいう右決議は存在しなかつたと認めるのが相当である。

従つて、五月二〇日ころ概算で立替金を支払いその後書類を整えて六月に政治資金規正法上の報告をする筈であつたところ、後援会本部、事務局等が捜索され書類が散逸したため、その報告をするに至らなかつたとする主張も理由のないものである。以上のとおり、本件金員が立替金の精算的概算払であるとすることはできず、その支出の時期、支払方法、金額等からすると、判示のとおりの趣旨を認定するのが相当である。

二  各被告人の供述調書に任意性がない旨の主張について

しかし、被告人らはいずれも当公判廷で、各その検面調書につき、いずれも内容を読み聞かされたうえ、署名、指印している旨供述していること、各供述調書の内容は、それぞれ当公判廷での供述と対比すると、既に説示した客観的事実に合致するものであつて、自然であり前後脈絡するものがあるほか、訂正を求めて、その訂正がなされている個所もみられるし、前示平野屋方の吉村、助川、根本の話のあつた点についての吉村の供述にみられるように、記憶がないとの供述は、その旨録取されているし、供述間の相違点は、それとして調書が作成されていて、その間不法な誘導等のなかつたことが認められる一方、薄井、吉村、助川は、本件一七〇万円の授受の場所、金額、相手方について、当初虚偽の事実を供述し、これがそのまま録取されて、調書が作成されているなどのことからすると、被告人らに対し、違法にわたる取調が行われたと認めることはできない。

なお、被告人らが捜査官に対し、できるだけ事実を隠蔽し、虚構の事実を述べても罪責を逃れようとしたことは、事件発覚後薄井、吉村、助川らが一時所在をくらませていたこと、調書上、逮捕された後も、客観的事実との矛盾を突かれて供述せざるを得なくなつて、始めてその事実を認めるに至つた経緯が認められるなどのことからすると、捜査官が理詰めの質問をし、ある程度の誘導をすること、場合によつては語気の強くなることもありうべきことであつて、その程度の取調方法を以て脅迫によつてなされた供述とすることはできない。

更に、薄井、吉村らの健康状態も任意性を疑わしめるに足りるものということはできないし、助川が再逮捕されたからといつて、記録によればそれは理由のあるものであつて、不当な拘禁のもとになされた自白であるとも認められず、供述の任意性を疑わしめる事由とはなし得ないものである。被告人川崎に対する茅根検事の行為も同被告人の供述によつても、故意の暴行を受けたというのではなく、同検事が立上つた際、たまたま机が倒れ自分も転倒したというものであつて、暴行によつて自白を強要したものとは認められない。更に、押収してある留置人診療簿、昭和五二年一一月一二日付捜査報告書によれば、同被告人が水戸署に来診を受けたという志村医師は、自白の後である七月二〇日以降診察したものであることが認められ、カルテに外傷の記載もなく、自白と右検事の行為との間に因果関係は認められない。更に証拠調をした同被告人の検面調書二通は茅根検事ではなく検事山田一夫が録取したものであること、右自白前に同被告人には中井川曻一ほか一名の弁護人が選任されていて、防御権の行使は十分行使しうる状況にあつたなどのことからすると、右二通の検面調書には任意性があるものと認めるのが相当である。以上のとおりであつて、被告人らの供述調書に任意性がないとの主張は採用できない。

また、これらの供述調書に特信性を欠くということもできない。

三  当時解職投票は市長の辞職により避けられる見通しであつたため、立替金の概算的精算をしたのであつて、本件金員の授受は解職投票に関するものでないから犯罪は成立しない旨の主張について

しかし、薄井、吉村、助川らにリコールを回避しようとの意図もあつたこと、薄井市長が辞表を書き、これを五月三〇日と六月一六日ころに助役などに一たん提出したことは認められるものの、吉村の当公判廷での供述等にもあるとおり、市長は終始強気であつて、解職投票を辞さない姿勢であつたこと、投票に至るまで、街頭宣伝活動、署名集め、賛否投票用紙の配布のための戸別訪問など投票運動が継続されていたこと、結果的に市長は辞任しないまま、解職投票が行われたことなどの事実は証拠上明白であつて、選挙対策本部なるものまで組織してなした被告人らのいう後援会活動が、投票運動にあたることも自明である。

してみれば、現実に投票運動は中止されることなく行われていたのであるから、市長の辞表提出の有無、辞意の存否が本件犯罪の成否にかかわるものでないことも、また、明らかであつて、金員授受の趣旨は、既に判断したとおりであるから、この点の主張も採用の限りでない。

四  被告人助川及び弁護人は、全面的に本件犯行を否認するが、吉村、薄井の各関係検面調書によれば、助川はむしろ積極的に本件犯行を意図し、推進したことが明らかであり、ことに、同被告人が吉村、薄井の面前で、金バツヂを外させるようなことはさせない旨話したとの吉村、薄井の検面調書中の記載は同被告人の関与の程度を如実に物語るものがあり、右の点の供述がその内容からみて、検察官の創作であるとすることはできないものであつて、被告人助川の否認は理由がない。

また、各被告人らが本件金員の供与を受けるに際し、その趣旨が判示認定のとおりであることを認識していたことは、前説示及び前掲関係各被告人の検面調書並びに関係各証拠上明らかに認められるのであつて、これに反する被告人らの公判廷での供述は、いずれも信用できないものである。この点の主張も排斥を免れない。

なお、被告人川崎が「那珂湊の真相」なるパンフレツト印刷代一二万円を後援会のために立替払していた事実は認定できるけれども、それは本件授受された金員とは別個に精算されるべきものであつて、右金員が前示のとおり後援会の資金ではなく、同被告人もこれを了知していたものと認められる以上、その犯罪の成立を否定すべき理由はない。また、被告人河田に対する金員の授受も、後援会として正規のものではなく、その現実の使途も、解職反対のための投票用紙ひな型を配布するため、地方自治法によつて準用される公職選挙法一三八条に違反する戸別訪問をした者に対する日当等として支払われたものであつて違法であり、その訪問先が後援会員に限られたとしても、同条違反の行為であることは明らかであるから、いずれの点からしても、同被告人及び供与者たる吉村に本罪の成立を否定すべき事由は存せず、この点の主張も理由がない。

(法令の適用)

被告人薄井、同吉村、同助川の判示第一の各所為

各刑法六〇条、公職選挙法二二一条一項一号(それぞれ所定刑中各懲役刑を選択)

判示第二の一ないし九の各所為

各公職選挙法二二一条一項四号、一号(各懲役刑選択)

同第三の所為(被告人吉村)同法二二一条一項一号(所定刑中懲役刑選択)

同第四の所為(被告人河田)同法二二一条一項四号、一号(所定刑中懲役刑選択)

併合罪の処理(被告人薄井、同吉村、同助川)

それぞれ刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(いずれも犯情の最も重い判示野澤力三に対する罪の刑に各法定の加重)

刑の執行猶予(被告人全員)それぞれ同法二五条一項

没収(被告人黒沢武雄、同黒沢英雄)公職選挙法二二四条前段

追徴(被告人薄井、同吉村、同助川、同黒沢武雄、同黒沢英雄を除くその余の各被告人)同法二二四条後段

訴訟費用の処理

刑事訴訟法一八一条一項本文(連帯負担の分については更に同法一八二条)

(なお、公職選挙法の規定は、いずれも地方自治法八五条一項同法施行令一一六条の二、第一〇九条により準用されるものであり、その罰則は、昭和五〇年法律第六三号付則四条により、同法による改正前の法律による。)

(量刑の事情)

本件各犯行は、公正であるべき市長解職投票に際し、多額の金員をもつて投票人を買収しようとしたものであつて、解職投票が地方自治において住民の直接政治に関与することのできる重要な制度であることを思えば、本質的に選挙と異るところはなく、それが民主政治の根幹をなすことは明らかであつて、これを買収という最も悪質な行為によつてその公正を害しようとした被告人らの責任は、いずれも軽視できないものがある。

ことに、被告人薄井、同吉村、同助川の行為は本件各犯行の原動となつたものであつて、その責任は重大である。

よつて、各被告人らの経歴、平素市会議員などとして地域社会に貢献するところがあつたことのほか、家庭の情況などを考慮し、それぞれの責任に応じ主文のとおり判決する。

別紙 犯罪事実一覧表

<省略>

<省略>

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